小児の漢方診療

 当院では開院当初から漢方薬を積極的に使っています。このページでは、効果が見られた例を主に当院での経験を記していきます。

 

 漢方薬は症状が同じでも効果が異なることが多いくすりです。以下の記事は当院での経験を記載しており、誰にでも当てはまるわけではないことをご了承ください。症状が似ていても、服用にあたってはかかりつけ医や漢方専門の薬局にご相談されることをお勧めします。

 また、個人の特定を防ぐため、症状、経過などに若干の改変を加えていますのでご了承ください。

 (令和3年4月6日


 

抑肝散1

 生後7ヶ月の女児。6ヶ月頃から夜泣きがひどく1時間に1回、多い時は30分に1回くらいの夜泣きがあったそうです。これではお母さんが休まりません。

 この子には初めに夜食をとるようにすすめました。1歳近くなると、夜にお腹が空いて夜泣きする子供がいるのですが、この子には効果がありません。

 次に甘麦大棗湯を成人の1回分を朝と夜に半量ずつ服用してもらいました。「少しよいようだ」とのことで服用を続けてもらいましたが、8ヶ月頃にひどい風邪をひいてそれをきっかけにまた夜泣きがひどくなりました。

 そこで抑肝散を処方したところ夜泣きがなくなり、2週間服用して終了としました。

 

抑肝散2

 3歳の男の子。3歳になってから一晩に4〜5回目が覚めて、お母さんを探すそうです。こうなったきっかけはわかりません。

 この子には抑肝散を成人の1回量の半分にして眠る前に1回だけ服用してもらうことにしました。服用を始めた当日から夜起きる回数が減って、2週間後にはお母さんが「楽になりました」とのことでした。その後もう一回、今度はお父さんと受診されましたが「服用するとよく眠ってくれる。我が家のお守りです」とおっしゃってました。その後抑肝散を服用しなくても眠れるようになりました。

 

抑肝散3

 小さい頃から高熱を出すと毎回眠っている時にうなされるようにうわ言を言ったり、時には体をじたばたさせる子どもがいました。これは「熱せん妄」という状態でこの子の場合は病院でいろいろ検査してもらっても異常は見つかりません。体質のようなものですが、本人も、見ているご家族も辛いと思います。

 12歳の冬にインフルエンザにかかった時に、インフルエンザの薬の他に抑肝散を処方してみました。すると高熱はでましたが、熱せん妄を起こさず眠れたそうです。

 

 抑肝散はもともと「夜泣き」「疳(かん)の虫」に効く子どもむけの薬です。イライラや興奮を抑える働きがあると考えられており、老人の夜間せん妄(夜に起き上がって何か話しだしたり、歩き回ったり、時には暴れたりすること)にも有効なことがあるそうです。

 (令和3年4月13日)


大柴胡湯

 自閉症のある高校生女子。自分から話すことができず、おうむ返しが少しある程度です。いろいろな感情はあるのでしょうが、それをうまく表現できないため、イライラしてお母さんに噛み付いたり、泣いたりすることがあるそうです。

 病院からイライラを落ち着かせる薬や鎮静剤が処方されていましたがあまり効果がないとのことでしたので当院から漢方薬を処方することにしました。何種類かの漢方を試したのですが効果なくどうしようかと思っていたところで飯田誠先生の「自閉症は漢方でよくなる!」という本に出会い、書いてあった大柴胡湯を処方したところイライラが減り、学校の先生からも「最近落ち着いてますね」と言われたそうです。

 この方には抑肝散、甘麦大棗湯など使いましたが効果ありませんでした。体が大柄で力もありそうな方ですのでいわゆる「実証」でした。

 その後登校を嫌がることが多くなったとのことで抑肝散を12回で追加したところ、落ち着いて登校できるようになったそうです。これも飯田先生の本に書いてあった組み合わせです。

 

五苓散

 深夜から嘔吐を繰り返す小学校低学年の男児。発熱もあり、周囲で感染性胃腸炎が流行中だったので、男児も感染性胃腸炎と診断。吐き気があり、経口薬が服用できそうもないため五苓散の座薬(自家製で保険適応外)を使用しました。

 翌日受診したところ、「午後には元気になってゲームをしてました」!

 

 五苓散は嘔吐、下痢に有効ですが年少児では吐き気が強いと内服できないことがあります。それに対して座薬を作ったり、ぬるま湯や生理食塩水に溶かして(完全には溶けない)チューブで肛門から入れる(注腸と言います)方法をとることがあります。

 感染性胃腸炎では自然に吐き気が治まることが多いのと、他にも吐き気止めの座薬があるので最近はあまり使用していません。

(令和3年4月20日)

清水区に流れる大沢川の桜です

 

 

 

 

 

 


大建中湯

 高校生男子。毎日登校前の排便に時間がかかり、トイレに閉じこもるそうです。「便は出るのだがすっきりしない」ということで、腹痛や下痢も時々あります。発熱や嘔気、血便はなく、感染や腸の炎症は否定的です。整腸剤を使っても改善がなく、下痢止めは便秘気味になってしまい使えません。

 内科の先生にも相談して、過敏性腸症候群の診断でセレキノンと大建中湯を処方したところ、数日のうちにいわゆる「しぶり腹」が改善したそうです。その後も時々腹痛はあるそうですが、早めに大建中湯を服用することで症状が消失し、腹痛や下痢に対する対策ができるという安心感からか腹痛発作も減ってきています。

 

 過敏性腸症候群とは腸に感染や炎症、腫瘍などがないにもかかわらず、腹痛、下痢、便秘などが数ヶ月にわたって続く状態です。精神的なストレスや不安などがあり、そのために腸の動きが本来より強く動いたり弱くなったりすることと、腸の痛みを感じやすくなるために症状が起こると言われています。この病気で下痢するタイプには大建中湯が広く使われています。また、腹痛が強いタイプには桂枝加芍薬湯を用いる場合もあります。

(令和3年4月27日)