当院では以前から夜尿症の治療に力を入れており、夜尿でお困りのご家族からご相談を受けてまいりました。これまでのご相談、ご質問のあったことを中心に、夜尿症全般の知識、ご自宅でできること、治療のこと、当院での治療成績などをお話しします。
この記事をご覧になって治療の希望のある方は当院までご連絡ください。受診をご希望の方は、かかりつけの方でも予約システムではなく受付にご連絡ください。初診に必要な時間の取れる日時をご案内いたします。
なおこの記事は当院で経験した内容以外は夜尿症診療ガイドライン2016(診断と治療社)などに基づいています。
おねしょと夜尿はどう違うの
生まれてから2歳頃までは毎晩おねしょをします。その後年齢とともにおねしょをする割合が減ってきます。6歳になっても1ヶ月に数回以上のおねしょがある場合には「夜尿症」として治療が必要になることがあります。
おねしょは自然になくなるのでは?
年齢別のおねしょの割合を見ると、2歳頃からおねしょをする子どもの割合が減って行きますが、5歳で20%、小学校1〜2年生で10%の方が月に数回以上の夜尿があると言われています。
小学校5〜6年生では夜尿の子どもは5%と言われていますので、大きくなれば自然とおねしょをする子どもは減っていきます。
夜尿があるのですが治療が必要でしょうか?
上で説明したようにおねしょは自然に回数が減って、なくなっていく子どもが多いので、回数が減っているのであれば、治療せずに様子を見ていても差し支えありません。
ただし、小学生になっても夜尿の回数が1週間に3〜4回以上ある場合は腎臓や膀胱の病気が隠れている場合があるので、受診していただく方が無難です。
また、おねしょのために学校などでの宿泊訓練、修学旅行、合宿などを嫌がることがあります。夜尿症は男子に多いので、妹はないのにお兄ちゃんはおねしょが続くのでお兄ちゃんがひけめに感じたりすることがあるようです。
お子様がおねしょのことを心配する、恥ずかしがる、あるいは夜尿の話をいやがる。そんなふうにおねしょのことを気にしているようであれば、受診を検討されたらいかがでしょうか?
夜尿症の子どもの経過を見ていくと、治療すると1年後に50%の子どもでおねしょがなくなりますが、治療をしなかった子どもでは10%くらいの消失率でした。つまり治療をしていくことでおねしょのなくなる時期が早まります。
夜尿の検査はどんな検査がありますか?
当院ではふだんの生活、おねしょのことをうかがい、尿検査を行います。また、数日間家庭でのおしっこの回数や一回のおしっこの量を測定して記録していただきます。
腎臓や膀胱の超音波検査を行うこともあります。
こうしたことで、腎臓の働きと膀胱の大きさが推定できますので、異常がなければ夜尿症と考えます。
はじめの検査や治療途中で腎臓や膀胱の病気の可能性が高ければ、静岡県立こども病院などの専門医療機関に紹介することがあります。
県立吉田公園のチューリップ
夜尿症の原因はなんでしょう?
夜尿症の原因は抗利尿ホルモンというホルモンの分泌量が少ないことと、膀胱の広がりが不十分なこと、それと睡眠のリズムの異常がいろいろな割合で混ざっていると考えられています。
抗利尿ホルモンは腎臓にはたらいておしっこを作らないようにするホルモンです。成人やおねしょをしない子どもは、このホルモンが日中は少なく、睡眠中は多く分泌されます。しかし、夜尿症の子どもでは睡眠中の抗利尿ホルモンが増えないことが知られています。
そのためにおねしょのない子どもに比べて夜尿症では睡眠中におしっこがたくさん作られています。
また、夜尿症では膀胱におしっこをためる量が少ない子どもがいることも知られています。そうすると膀胱からおしっこがあふれてしまい、おねしょになってしまいます。
さらに夜尿症の子どもの特徴として、夜眠ったら朝起きるまで熟睡してしまいます。そのためにおねしょをしても目を覚まさず、朝起きてから自分のおねしょに気がつくことが多いです。成人であれば睡眠中でもおしっこをしたくなれば目が覚めますから、睡眠の深さやリズムに問題があると考えられています。
夜尿症の子どもに自宅で気をつけることは?
まず、おねしょをする子どもについて、わかってあげて欲しいことがあります。
それは、おねしょは気持ちの問題ではないこと。それと夜尿症の子どもはおねしょのことを(たとえ口には出さなくとも)恥ずかしがったり、ひけめに感じていることが多いことです。
◎おねしょをしても「怒らない」「(きょうだいや親類と)比べない」「焦らない」。
◎もしおねしょをしなかったら「ほめてあげる」
ことを意識してください。
では、具体的にどうすればいいでしょうか?
日常生活や食事、水分の取り方を考える際に、知っておいて欲しいのは
飲んだ水分がおしっこになるまで3時間かかる。
ということです。
このことから、もし午後9時に眠るなら、午後6時以降はできるだけ水分を控えた方がいいことになります。そのためには
◎夕食の時間を早める
◎夕食時の水分を控える
などに気をつけて欲しいですし、
夜にのどが乾かないように
◎食事の味付けを薄くする
◎熱いお風呂に長く入らないようにする
とかの注意も必要です。
夕方から夜にかけて塾に行ったり、スポーツをしている場合は一人ひとりの生活リズムに合わせた気配りが必要です。
お子様に気をつけて欲しいこと
ひとつは、夕食から寝るまでの水分摂取をできるだけ我慢して欲しいことです。
寝る前にトイレで排尿しても、直前まで水分をとっていたらその分は体に残って、おしっこの原料になります。
夕食時の水分も少なめにして、夕食以降はできるだけ水分を取らないようにしましょう。ただし、暑い日や夕方から夜にかけてスポーツをするときには脱水にならないように注意が必要です。
もうひとつお願いしたいことは、日中のおしっこをできるだけ我慢してもらいたいことです。
おしっこを我慢することで膀胱がだんだんふくらみ、より多くのおしっこをためることができるようになります。
学校でおしっこを我慢して授業中にトイレに行きたくなるのは困るでしょうから、平日の夕方や休日のおうちにいる時だけでかまいません。
便秘のためにおねしょが続くことがあるそうですが?
おしっこがたまる膀胱の後ろに直腸という腸があります。普通は直腸はぺちゃんこなのですが、便秘の子どもでは直腸に便がたまっていて、そのために膀胱がじゅうぶんにふくらまないことがあります。便秘の治療をして便がたまらないようになるとおねしょもなおってしまう子どももいます。
排便が2〜3日に一回とか、排便に時間がかかる、便が硬くてコロコロしているなどの場合は便秘があるかもしれません。慢性便秘も治療が長くかかることがありますが、それはまた別の機会にお話しします。
夜尿症の子どもはオムツにした方がいいの?
普通のパンツ、オムツや紙パンツ、おねしょシーツのどれを使っても、それだけでは夜尿症のなおり方に差はないことがわかっています。
1週間に何回もおねしょをするようであれば、オムツや紙パンツの方が本人もご家族も負担が少ないように思います。
夜尿症の薬にはどんな種類がありますか?
夜尿症に使われる薬は①抗利尿ホルモンを補充するくすり②膀胱(ぼうこう)を広げるくすり③その他があります。
①抗利尿ホルモンを補充するくすり
夜尿症では睡眠中の抗利尿ホルモンが不足していることは明らかなので、①の抗利尿ホルモンを補う薬(ミニリンメルト®️)は夜尿症の薬としては最も使われている薬です。
この薬は柔らかい錠剤ですがこれを舌のしたに入れて溶けるのを待つ、という使い方をします(舌下錠)。舌の裏から体に吸収されるため、お水と一緒にごくんと飲んでは効き目がありません。効果は8時間くらい続くので、眠る30分くらい前に服用することになっています。
おしっこを作る量が減るので、そのために体に水分がたまりやすくなります。副作用としてむくみや水分過多による頭痛などが報告されていますが、当院では経験がありません。
②膀胱(ぼうこう)を広げるくすり
夜尿症では膀胱が広がらず、おしっこがたまりにくい子どもがいます。抗コリン剤と呼ばれる薬のグループは、膀胱をリラックスさせて広げる働きがあります。
排尿を我慢してもらってから出したおしっこの量(がまん尿量)が少ない子どもや、一晩に2回おねしょをしてしまう子ども、あるいはミニリンメルト®️だけでは効果不十分な場合に併用することがあります。
副作用として口の中が乾いてしまうこと、便秘になることがあります。どちらも夜尿症には不都合ですが、これまでに薬を中止するほどひどくなる子どもはいませんでした。
③その他
①、②のくすりや、あとに説明するアラーム療法で効果が不十分な場合に一部の抗うつ剤を併用することがあります。どのように効果があるのかは明らかではありませんが、抗利尿ホルモンの分泌をうながす働きや眠りの質を改善する作用が考えられています。
副作用としてふらつき、口渇、便秘などがあげられますが、使う量が少ないので比較的まれとされています。
漢方薬も一部の方で効果のあることがあります。
アラーム療法とはどんな治療ですか?
濡れると音のでるアラームをオムツにつけて眠ります。おねしょをするとアラームが鳴るので、それを止めて、トイレで排尿し、オムツやパジャマを着替えて眠ります。
これを繰り返しているうちに膀胱が広がって朝までおしっこをためられるようになります。
ただし、夜尿症の子どもは眠りが深いので、アラームがなっても気がつかないで眠り続けていることがあります。そのときはご家族がアラームを止めて、子どもを起こしてあげる必要があります。
治療に必要なアラームは各社から発売、レンタルされていますが、製品として評価が高いピスコールのHPを紹介します。
わたなべ小児科クリニックの治療成績を教えてください
当院でくすりによる治療をおこなった患者様の経過について説明します。
2006年以降に治療を終了した患者さんは36名、現在治療中の患者さんは17名います。
治療を終了した36名のうち、治癒が23名(64%)、県立こども病院に紹介した方が2名、通院を中断して治癒を確認できていない方が11名でした。
中断11名のうち4名は治療開始後2週間までに1週間のおねしょの回数がそれまでの半分以下になったので、それらの方はそのままなおったかもしれません。
抗利尿ホルモンを補うくすり(ミニリンメルト®️)が発売されたのが2012年5月ですが、それ以前に治療した6名のうち治癒した子どもは2名(33%)であるのに対して、ミニリンメルト®️を使用した30名では治癒した子どもは21名(70%)でした。
他にもわかったことは、
○治癒するまでにかかる時間は子どもによって違う
○1週間あたりのおねしょの回数が多い子どもや、一晩に2回以上おねしょをする子どもは治りにくい印象がある
ということでした。
残念ながら当院で治療をはじめても定期的に受診されなくなったり、病院に紹介した子どももいましたが、治癒率としては都心部の夜尿専門外来と同程度の成績のようです。
診療時間
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | |
9:00-12:00 | ○ | ○ |
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14:00-15:00 | ◎ | ◎ |
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15:00-18:00 | ○ | ○ | / | ○ | ○ | / |